『大丈夫?』

 何故そう尋ねてくるのかわからないまま、千佳はただその場で俯くことしかできなかった。

『七組の猪狩だろ? さっきの』

 え、と千佳はやや顔を上げる。華絵のことを知っているということは、彼もまた自分と同じ一年生ということか。

『あ、ごめん……本屋で君を見掛けてから、ついここまでつけてきちゃった。あの場で声をかけていれば良かったんだけど……』

 同じ制服を身にまとうその人の話から、千佳はようやく状況を理解した。要するにこの人は、漫画を万引きしてから華絵に渡すところまで、その一部始終を目撃していたということなのだ。