現在、屋上には詠斗の姿だけがある。この広々とした空間を図らずも独り占めしている状態だ。春のうららかな陽気は今日も絶妙な心地良さで、うっかりするとうたた寝をしてしまいそうだった。
チャイムの音が聴こえない詠斗は、携帯のアラーム機能を使って昼休みを過ごしていた。五時間目の五分前になるとアラームが作動し、バイブレーションで時間を知らせてくれる。手で握っているか胸ポケットに入れておくことが肝心で、ズボンのポケットでは振動に気付かないことがある。一度それで失敗して授業に遅れてしまい、以来、昼休みには必ず胸ポケットへと携帯をしまい直していた。
食べ終えた弁当箱を片付け、ぼんやりと青空を眺める。小学生の頃までは飛んでいる鳥の声も聴こえていたのに、なんて、どうでもいいことを思い出しては感傷に浸る。最近では少なくなっていたけれど、今日はそんな昼休みになってしまった。
その時。
『――あの』
はっ、と詠斗は背筋を伸ばした。咄嗟に右耳の補聴器に手をやる。
――聴こえた!
今、確かに聴こえた。昨日と同じ、知らない女の人の声――!
チャイムの音が聴こえない詠斗は、携帯のアラーム機能を使って昼休みを過ごしていた。五時間目の五分前になるとアラームが作動し、バイブレーションで時間を知らせてくれる。手で握っているか胸ポケットに入れておくことが肝心で、ズボンのポケットでは振動に気付かないことがある。一度それで失敗して授業に遅れてしまい、以来、昼休みには必ず胸ポケットへと携帯をしまい直していた。
食べ終えた弁当箱を片付け、ぼんやりと青空を眺める。小学生の頃までは飛んでいる鳥の声も聴こえていたのに、なんて、どうでもいいことを思い出しては感傷に浸る。最近では少なくなっていたけれど、今日はそんな昼休みになってしまった。
その時。
『――あの』
はっ、と詠斗は背筋を伸ばした。咄嗟に右耳の補聴器に手をやる。
――聴こえた!
今、確かに聴こえた。昨日と同じ、知らない女の人の声――!