眉間のしわを深くする神宮司。詠斗はやや力を込めて言葉を紡いだ。

「証言してくれた目撃者がお前の姿を見たのは、あの階段の近くでのことだったそうだ。ここと違って、あの階段は公園と高層マンションに囲まれているおかげでここよりうんと明るい。どんなに地味な服装をして灯《あか》りを避けていたとしても、見られるリスクはこの場所に先輩の遺体を放置して逃げるよりはるかに上がる。迂闊だったな」

 この話、半分は本当で半分は嘘だ。

 詠斗の言う目撃者というのは美由紀のことで、確かに美由紀は殺された夜に神宮司のことを目撃している。しかし、神宮司を見たというのは殺される直前のことで、くだんの階段でのことではない。いくらあの階段付近が明るいからといって、顔を正確に判別することは不可能だろう。

 このブラフに、神宮司はどう切り返してくるか――。