「猪狩華絵が殺されたのは二日前の午後十時すぎ。その時間、草間千佳は大学生の姉とともに自宅近くのレンタルショップにDVDを返却しに行っていた。店の防犯カメラに映像が記録されていた上に、店員が顔を覚えていたよ。ちなみに羽場美由紀が殺された四月三日にも、同じレンタルショップの防犯カメラに草間千佳の姿が映っていたのを確認している」

 ありがとう、と言ってから、詠斗は話を先に進める。

「こうして作られた完璧なアリバイは、たとえ殺す動機があっても実際には殺すことのできないことの証明となり、警察の捜査を行き詰まらせることに成功した。もちろん猪狩華絵殺害時には神宮司にアリバイはなく、そして仲田翼殺害時には榎元さんのアリバイがない。これも警察の調べでわかっていることだ。たとえこの一連の事件が単独犯によるものとして捜査が進められていたとしても、それぞれ殺す動機に乏しい人間を狙っていることに誰かが必ず違和感を抱くことを二人は想定していた。一度は疑われることを覚悟しても、何か決定的な証拠が出ない限り逮捕されることはないと考えたんだろう。実際、その通りになったしな」