ぱく、と玉子焼きを口に放ると、どうやら巧がため息をついたらしい空気が伝わってきた。説得を諦めたのか、巧はものすごい勢いで重箱二段を空にしてみせた。

「バスケ行くわ」

 詠斗に見えるようにそう言うと、じゃあな、と巧は足早に屋上を後にした。食べてすぐ動いて大丈夫か、と聞くひまもなかった。

 ちなみに巧も紗友も中学の頃からバスケットボール部に所属していて、紗友と家が近所で幼馴染でもある詠斗と、通っていた小学校の違う巧との間に縁が生まれたのは紗友のおかげだ。中学に上がって早々、巧は紗友に恋をした。いわゆる一目惚れというやつだ。詠斗のおかげでその恋は叶わなかったわけだが、詠斗にその自覚がない上に、今でも紗友と巧はお似合いのカップルになれると思っている。実際、二人は仲がいい。なんやかんやで、詠斗と巧も。