『答えは教えません。自分で見つけることに意味があるからです。代わりに、人生の先輩として一つだけアドバイスを』

 ひと呼吸置いて、美由紀は改めて口を開いた。

『強がることと強いことは違います』

 え、と詠斗は微かに声を漏らした。

『強がりは時に自分を傷つける刃《やいば》になります。自分で自分を傷つけるような人は、強い人とは言えません』

 その意味を上手く自分の中に落とし込めなくて、詠斗はその場に立ち尽くすことしかできなかった。

『解答期限を伸ばしましょう。ぜひ、あなた自身で答えを見つけてください』

 詠斗は何も言えないまま、じっと宙を仰いでいた。
 綺麗に笑った美由紀の顔を、沈みゆく夕陽の中に見た気がした。