美由紀の言う『そこ』というのはおそらく、今詠斗が立っている美由紀の殴り倒されたこの位置から、件《くだん》の階段方面へ向かって少し歩いた先にある十字路のことだ。右へ曲がると信号のある大通りへと繋がり、左へ折れた先には一軒家の立ち並ぶ住宅地が続いている。猪狩華絵が被害に遭ったのは自宅近くの路上というから、美由紀の言うとおり猪狩華絵もこの路地を通って帰路に着いたのだろう。

「やっぱりそうですよね」

 そう呟いてから、詠斗は改めて斜め上を仰ぎ見た。

「ようやく犯人がわかりそうですよ、先輩」

 詠斗がここへ来た理由。
 それは、美由紀に事件の真相について知らせるためだった。