「あれ、巧くんは?」

 少し遅れて自転車を押しながらやって来た紗友は、詠斗の肩をぽんと叩いてキョロキョロと辺りを見回した。

「帰った」
「帰った? もう?」

 紗友は巧の消えていった西の方角を見つめ、「早いなぁ」と呟いたようだ。

「送るよ」

 残された詠斗は紗友に向かってそう言うと、「えっ」と驚いた顔を向けられた。

「いいよ、すぐそこだし」
「俺、駅に行くから。お前んちのほう通って行く」
「駅? どこ行くの?」

 心配の色を滲ませた紗友の瞳が詠斗をそっと覗き込む。

「美由紀先輩の事件現場。……先輩に会いに行く」