『私が詠斗の耳になるから!』 詠斗の聴覚が完全に失われた、中学二年の夏。 泣きながら、紗友は詠斗にそう言った。 痛いほど、その気持ちを嬉しいと思った。 けれど、それ以上に強く心に灯った想いがあったこともまた真実だ。 『紗友には、もっと自由な人生を送ってほしい』 耳の聴こえない自分に寄り添うことは、苦労を背負わなければならないということ。 それがどうしても許せなくて、詠斗は紗友の申し出を受け入れなかった。