「確かに死体の温度を調節して死亡推定時刻を狂わせる方法は存在する。遺体を温めて体温を上げれば死亡推定時刻は遅れるし、逆に冷やせば早まる。しかし、もしも神宮司隆裕がそのようなアリバイ工作を施したのだとしたら、他の二人にも同じ方法を用いて自らのアリバイを立証しようと画策するのが普通だろう。もちろん、神宮司が本当に犯人で、今回起こった三件の殺人すべてに関わっていたのだとしたらの話だが」

 確かに、と詠斗は思った。

 仲田翼に対してそこまで計画的に事を為しているのなら、美由紀の時と猪狩華絵の時とにアリバイがないというのはむしろ怪しくさえ見えてくる。これではいくらアリバイがあるとはいえ自分から疑われるような状況を生み出していると言っても過言ではない。

 それに、まだ単独犯と決まったわけではない。

 一人目の美由紀が殺されてから一週間が経って仲田翼は殺された。美由紀の事件とは別の犯人――たとえば動機のある神宮司隆裕が、美由紀の事件に便乗して仲田翼を何らかの方法で殺害したとも考えられる。猪狩華絵殺害事件についても同様だ。三件すべてが別の犯人の仕業であるという可能性を完全には捨てきれない。