部活動が中止になってしまったため帰宅を余儀なくされた紗友と巧に、詠斗はまんまと捕まってしまった。紗友が連絡を入れたと言い、そのまま穂乃果の待つ兄の家に強制連行されることになった。

 詠斗は電車で、紗友と巧は自転車で、それぞれ傑の自宅マンションへと赴いた。待ってましたと言わんばかりの凛々しい笑顔で穂乃果に迎え入れられた三人は、リビングに足を踏み入れた瞬間、同時に「あっ!」と声を上げた。

「兄貴!……なんで?!」

 ダイニングテーブルに着いて柔らかく微笑んでいたのは、誰あろう傑だった。

「なんで、も何も、ここは僕の家だぞ?」

「そういうことじゃない! どうしてこんな時間にここにいるんだよ?!」

「お前達がまた何やら楽しそうなことを始めようとしていると穂乃果から聞いてな。せっかくだから僕も会議に参加しようかと思って」

「なに悠長なこと言ってんだよ? こんなところで油売ってる場合じゃないだろ?!」

「何を言う、これも立派な捜査の一環だ。それに」

 傑はダイニングテーブルの上に置かれていた大学ノートを取り上げてこれ見よがしに掲げてみせた。

「お前達だって知りたいだろう? 猪狩華絵殺害事件の詳細を」

 それは傑が事件の捜査でメモを取る際に愛用しているノートだった。ニヤリと笑う傑の顔に、詠斗は盛大にため息をつく。何故か楽しそうに四人の様子をキッチンから眺めている穂乃果を横目に、詠斗達は傑に勧められるままテーブルに着くのだった。