「美由紀先輩ッ!!」
『――はい、何でしょう?』

 はっ、と詠斗は怖い顔をしたまま斜め上を見上げた。

「……良かった、聴こえた」
『すみません、ちょっと考え事をしていたもので』

 すとん、と力なく詠斗はベンチにへたり込んだ。はぁ、と長く息を吐き出す。

『どうかされたんですか?』

 悪意のかけらもないその一言に、詠斗はそっと俯いた。

「……怖かった」

『え?』

「また何も聴こえなくなったのかと思って……。いつもは先輩から声をかけてくれるのに、今日は全然聴こえてこなかったから」