『……本当にそうでしょうか』

 美由紀は悟ったような声でそう詠斗に言う。詠斗はわずかに顔を上げた。

『私には、強がっているようにしか見えませんけれど』

 美由紀の言葉に、詠斗の瞳がほんの少しだけ揺れた。


 そんなに強がらなくてもいいじゃん!


 いつだったか、紗友にも同じようなことを言われたことがあった。
 強がってなどいないと言うと、紗友はますます怒ってしまったことを思い出す。

『あなたがひとりを選ぶことで、苦しい思いをする方がいらっしゃるのではないですか?』

 階段の下、渡り廊下の窓の向こう。
 降りしきる雨が滝のように見えた。