「寂しいとか、つらいとか、そういうことは考えないようにしてます。確かに耳が聴こえないことでしんどい思いをすることもありますけど、世の中には俺以上につらい思いをしている人がたくさんいる。あなただってそうだ」

『……私、ですか?』

「そうです。わけもわからないうちに命を奪われるなんて、これ以上つらいことってないんじゃないですか?」

『……まぁ、言われてみれば』

「その程度の感情なんですか……」

 食べようと思ってつまんでいたミートボールを再び箱の中へと戻し、詠斗は息を吐き出した。

「とにかく、俺はひとりでいたって寂しくもつらくもないし、誰かにそう思われたくもない。楽ですよ、ある意味。ひとりでいれば誰も傷つけることはないし、俺自身が傷つくこともないから」

 そう言って、今度こそミートボールを口に運んだ。まずくはないけれど、特別美味しいとも思わなかった。