「ってなことがあってね」

 唖然としている詠斗に、穂乃果は少し頬を赤らめた。

「……まぁ結局のところ、その後も何か言いたそうな顔でうじうじしてたから『あんたはどうしたいのよ? 私と付き合いたいの? 付き合いたくないの?!』って詰め寄ってやったのよ。そしたらあっさり落ちて付き合い始めたってわけ。いやぁ、まさかそのままあの人と結婚することになろうとはねー」

 懐かしそうに目を細くする穂乃果。半強制的なところがいかにも穂乃果らしくて、詠斗もつい笑ってしまう。なんとなくだけれど、傑が穂乃果に惚れたのは、告白されたまさにその瞬間だったのかもしれないなと思った。

「ちなみに、兄貴のどこに惚れたわけ?」

 詠斗が問うと、穂乃果は「どこって」と言って肩をすくめた。

「あれほど容姿端麗な男が目の前に現れて、惚れるなってほうが難しいでしょ?」

 女子はみんなあの人のことが好きだったわよ、とさも当たり前といった風にそう付け加えてくる。一瞬にして強烈な劣等感に飲み込まれ、詠斗は無意識のうちにため息をついていた。