『いいんじゃないですか? 無理に返そうとしなくても』

 え? と言って、詠斗は立ち止まって斜め上を見上げた。

『注いでもらった力や想いを素直に受け止めることも、勇気ある人間の行いだと思いますけどね、私は』

 常に素直でいることもなかなか難しいですからね、と付け加えた美由紀は、きっと綺麗に笑っているのだろうと思った。

 まったく、兄貴といい先輩といい――。

 くしゃ、と髪を触り、詠斗は深いため息をついた。