「どうしたの?」

 紗友が何事かと覗き込んでくる。その声は、聴こえない。

「……なぁ、紗友」
「はい?」
「何でもいい、何か適当にしゃべってみてくれ」
「え?……あ、えっと……」

 萩谷紗友です、と紗友の口は動いた。
 もちろん声に出して言ったのだろうが、やはり何も聴こえない。
 辺りを見回している。今この屋上にいるのは、詠斗と紗友の二人だけ――。

「ねぇ、詠斗……?」
「――聴こえた」

 えっ、と紗友は目を見開いた。

「今……誰かの声が、聴こえた」