「吉澤詠斗《よしざわえいと》です。知っている人もいると思いますが、僕は耳が不自由です。大きな物音ならかろうじて聴こえるけど、人の話し声なんかは一切聴こえません。ただ、唇の動きで相手が何を話しているのかだいたい読み取れるので、用がある時は肩を叩いてもらって、気持ちゆっくり話してもらえれば問題なく会話は成立します。……まぁ、気を遣うのも面倒かと思うし、僕も面倒なんで、必要最低限の会話にとどめてもらえれば」
よろしくお願いします、と頭を下げて、詠斗は再び椅子に腰を落ち着けた。
新年度、新しいクラスメイトへ向けた自己紹介。完全に聴覚を閉ざされてからは、この挨拶が定型になっていた。
まばらに起こる拍手。担任教師の苦笑い。こちらも毎度お馴染みなのでどうということはない。通常級への進学を決めた時から覚悟していたことだ。穏やかな高校生活を送るには、打てる手をあらかじめ打っておく必要がある。それだけだ。
よろしくお願いします、と頭を下げて、詠斗は再び椅子に腰を落ち着けた。
新年度、新しいクラスメイトへ向けた自己紹介。完全に聴覚を閉ざされてからは、この挨拶が定型になっていた。
まばらに起こる拍手。担任教師の苦笑い。こちらも毎度お馴染みなのでどうということはない。通常級への進学を決めた時から覚悟していたことだ。穏やかな高校生活を送るには、打てる手をあらかじめ打っておく必要がある。それだけだ。