「ウソツキさん?」
 
私はいつものベンチのほうへズルズルと二本の傘を引きずりながら歩きだす。
ここから見る限り、姿は見えない。
また、膝を曲げて寝転がっているのかもしれない。

「ウソツキさん、いる?」
 
さっきの出来事を聞いてほしい。
そして、バカだと言われてもいいから、受け止めてほしい。
また帽子やパーカー越しに頭を撫でてもらって、あの魔法のチョコレートをひと粒もらいたい。

それなのに。

「……いない」
 
ベンチのところまで来たけれど、そこには少し水がたまっているだけで、ウソツキさんはいなかった。

“俺、毎日屋上にいるから”
 
昨日そう言っていた。
それに、不規則に来る私が毎回会うってことは、毎日ここに来ているって証拠のはずなのに。

「まだ来てないだけかな」
 
幾分落ち着いてきた私は、ボソリとつぶやいた。
そしてベンチの端っこの、あまり濡れていないところに座って待つことにした。