ぐいっと、濡れた制服の上から腕を引っぱられる。
服越しにウソツキさんに触れられることに慣れてしまっているからか、嫌な気持ちにはならなかった。

手の甲を見ると、まだうっすらと赤い。
ウソツキさんはそれに気付いているのかいないのか、なにも聞かずに私の腕を引いておりていった。
 
鍵を開けて五○一号室に入るウソツキさん。
私は促されるまま、玄関の中へ一歩足を踏み入れた。

ほのかにいい匂いがする。
いつものウソツキさんの匂いだ。

「あ、ごめん。今、普通に家に入れたけど、ストップ。そこで待ってて」
「え?」
「“え?”じゃないでしょ。ワタクシ、生物学的には一応オスですから」
 
バスタオル持ってくるからそこにいて、と続けて言ったウソツキさんは、奥のほうへ歩いていく。
玄関に突っ立ったままの私は、今さらながら警戒心皆無だった自分を恥じ、顔が赤らむのを感じた。