「アナタ、なにしてんの?」
 
その時、踊り場から聞き覚えのある声が降ってきた。
私は、あと数段というところで立ち止まり、顔を上げる。

「ずぶ濡れだな、ネコ。毛がペッタンコになって」
 
手すりに寄りかかってそう言ってきたのは、ウソツキさんだった。

「ウソツキさんこそ、雨なのに、なんで……こんなところに」
「いいでしょ。俺、このマンションの住人なんだから」
 
なぜだろうか、いつもの飄々とした口調と表情のウソツキさんに会えて、ホッとしている自分がいる。

「なに? 傘もささずに走ってきたわけ? 制服もビショビショで」
 
うつむいてなにも答えない私を見て、ウソツキさんは、
「はいはい。とりあえず五階行こ」
と、私のところまで階段をおりてきた。

「なんで五階?」
「俺の部屋五○一号室。階段おりてすぐ」