恐る恐る右の手のひらを差しだすと、ぽとんとひと粒、チョコレートが彼の親指と人さし指の間から落とされた。

箱型ケースに入った、セパレートタイプのチョコのひと粒。
さっきから食べていたのは、これだったのだろう。

「それ、つらいことや悩みごとを軽くする成分が入ってる」
「は?」
 
真正面から、真面目きわまりない顔をしてメルヘンなことを言う彼。
どう見ても、よくコンビニでも売っている見覚えのあるチョコだ。

「ほら、体温で溶けるから、早く食べて」
「えっ、あ」
 
パクッと、急かされてなにも考えずに口に入れた。
あとから思うと、知らない人からもらったものを口にするなんて、結構危険な行為だけれど。

「じゃーね、女子高生」
 
私がモグモグしていると、彼は広くなったベンチに胡坐をかきながら手をヒラヒラと振った。

「どうも……」
 
私は挙動不審にあとずさりをし、変な人だ、と思いながら屋上の出入口に向かった。