「ふーん」
 
男はまた黙って空のほうを見て、甘い匂いのするお菓子をひと粒、口の中に入れた。
 
あれ? この状況って……。
 
よく考えたら得体の知れない男の人と普通にしゃべっている。
今さら、ヤバいんじゃないか、と少し怖くなってきた私は、帰ろうと思ってカバンの持ち手を握った。

その時。

「ひゃっ!」 
 
突然ぬっと目の前に彼の手が伸びてきたから、驚きすぎてのけぞりながら立ちあがってしまった。
勢いがよすぎたからか、プラスチックの簡易ベンチが少しずれる。

「すげ。過剰反応」
 
突っ立ったままカバンを胸の前で押さえている私を見あげ、男が初めて薄く笑った。

「いえ、あの、帰ろうと思って」
「はい、あげる」
「え?」
 
男は先ほどから差しだしたままの手を、さらに私のほうへ押しやる。

「手、開けて」