「なんか話せば?」
 
視線は遠くの雲のまま、ウソツキさんが急に言った。

「なんかって言われても」
「学校であった嫌なこととか、先生の悪口とか、悩みごととか」
「ふふ、ネガティブなことばっかり」
 
ストレスがあること前提で提案してくるウソツキさんに、思わずふきだす。

「だって泣いてたじゃん、ネコ」
「え?」
 
泣いてた?

「最初会った時、このベンチで寝ながら」
 
気付かなかった。
少しはずかしくなって視線を外し、胸の前のカバンを両手でぎゅっと、かかえ直す。

「ま、いいけど。無理に聞きたくはないし、そこまで興味があるわけでもないし。でも、他人だから話せるってこともあるかな、と」
 
ウソツキさんは、やわらかく笑った。
彼の大人な顔を初めて見た気がして、ちょっとだけドキリとし、同時にちょっとだけ肩の力が抜けたような、そんな不思議な気持ちになる。