「なーんだ」
 
歩きながら、またボソリとつぶやいていると、
「ひゃっ!」
「うわっ!」
驚いた私の声に反応し、男が慌ててガバッと飛び起きた。
 
出入口からはベンチの背面しか見えないから気付かなかったけれど、座ろうとして横から正面に入ると、ウソツキさんが帽子を顔にかぶせて眠っていた。

「びっくりさせんなよ」
 
落ちた帽子を拾いながら、心底驚いて胸に手を当てているウソツキさん。

今までの飄々とした顔とはまったくちがうその様子に、少しだけふきだしそうになりながら、
「ごめんなさい。まさか寝てるとは思わなくて」
と謝る。

「お前も最初寝てただろうが、ネコ」
 
普通にネコと呼ばれた。
でも、嫌だというよりも、その呼び方に妙な親しみを感じて、なにも言い返さなかった。

なんで、こんなヘンテコなあだ名を受け入れてるんだろうか、私は。