私の狼狽した様子を見て、クスクス笑いながら立ち上がったウソツキさんは、エスコートするように私の手を引いた。

「手ぇつないで、屋上でも行ってみる? ネコ」
 
いつものからかっているような笑顔と声が、上から降ってくる。
私は目を開け、一瞬ポカンとしてしまった。

屋上? 
手をつなぐだけ?

「なに拍子抜けした顔してんの? 行かないの?」
 
口にキスをされるとばかり思っていた私は「ハ、ハハ」と笑ったあと、
「行くっ」
と、元気よく返事をして立ちあがった。 

「あ、忘れ物」
「え?」
 
棚の上にあったのは、いつものあのチョコレート箱。
その中から一粒取ったウソツキさんは、私の手のひらにぽとんとそれを落としてくれた。

「はい、キスに慣れる薬」
 
懲りもせずに赤面した私を見て、ウソツキさんはなに食わぬ顔をして笑いながら、玄関のほうへ手を引いた。