私は、そうだったんだと思いつつ、なにも言えなかった。
ていうかお兄ちゃん、勘違いとはいえ“子どもに飴玉”なんて紛らわしい例え話、使わないでほしい。
 
心の中でそう思って、お兄ちゃんにちょっとだけ恨めしい視線を向けた。
なにが問題なのかわかっていないお兄ちゃんは、ひたすら首を傾げていたけれど。

「じゃーね。お邪魔しました」
 
話に区切りがつくと、ウソツキさんはそう言って、私の制服の袖を引っぱった。

それを見たお兄ちゃんは、
「おいっ、美亜をどこに……」
と、ちょっと焦った声で呼び止める。

「上。大丈夫、なにもしようがないから」
「あっ」
 
目を丸くして、手をこちらへ伸ばしたまま固まるお兄ちゃんの顔が、閉まりかけたドア越しに見えた。
ウソツキさんは勝手に玄関のドアを閉めて、エレベーターのほうへ私をまた引っぱっていく。