この人は、なんでいつも飄々とそんなことを言うんだろう。
じわりとまた胸に苦みが広がってしまい、私は少し目を伏せてしまった。
 
ベンチまで歩いていき、いつもの定位置に腰をおろす。
三メートルくらい離れたところでフェンスに寄りかかっているウソツキさんは、それを眺めながらも動こうとはしなかった。

「晃樹さん」
 
ふいに発した私の呼びかけに、ほんの少しだけウソツキさんの目が揺らいだ気がした。

「伊勢谷晃樹さん」
 
私はまっすぐウソツキさんを見て、今度は昨日お兄ちゃんに教えてもらったフルネームを呼ぶ。
やっとわかった本名だ。

「はい」
 
表情を変えずに、いつものトーンで返事をするウソツキさん。

そして次の瞬間、わずかに笑いながら、
「思い出した? それとも、遼平が言ってきたの?」
と聞いてきた。

遼平とは、お兄ちゃんのことだ。