「そういえば、この前偶然見たんだけど、あの人の彼女さん、キレイな人だね」
「えっ、見たの? あいつの彼女。紹介してもらってないけど、最近女ができたようなこと言ってたから、気になってたんだ」
 
自分で聞いておいて、聞かなきゃよかったと落ち込む。

やっぱり彼女なんだ、あの人。
胸がずんと重くなり、お兄ちゃんの友達だとわかって近付いたと思った距離が、また一気に離された。

「でも、卒論で忙しいはずなのに、よくそんな時間があるよな。あいつも」
「卒論?」
「うん、卒業論文。あいつのテーマはたしか……“暗示”だったかな。よくわかんないけど、ほら、子どもに飴玉をやって『痛みが取れるお薬だよ』って言ったりする、あんな感じの」
 
私は、その言葉を聞いて呆然とした。