“原因も話したいんなら聞くけど”
 
別の時にウソツキさんが言った言葉もよみがえる。

いや、話していない。
あの時、私はそのまま原因をなにも説明しなかった。
大橋くんにメールを見られたことを話した時も、そこまで掘りさげては話さなかったし。
 
――コンコン。

「わっ!」
 
ただでさえ動悸が激しくなっていたところにノックの音が聞こえ、咄嗟に驚きの声をあげる。

「あ、ごめん。びっくりさせちゃった? 俺だけど」
 
カチャリとドアが開く。お兄ちゃんがひょっこり顔を覗かせた。

「なんだ、お兄ちゃん。今日はこっちで食べるの?」
 
またもや考えごとに浸りすぎて、お兄ちゃんが家に来ていることに気付かなかった。

「ああ、今日はバイト休みだから」
 
お兄ちゃんはにっこり笑う。
その顔を見てつられて微笑んだけれど、胸の奥にはモヤモヤした灰色のなにかが残ったままだった。