ただただ雨音だけが静かに響く中、音もなくハラハラと涙が頬を伝っていく。

“触れたくても触れられない”
“本当はさわり倒したい”
 
そう言って、目の前でうずくまっているウソツキさん。

好きだって言葉よりも嬉しくて、その分それ以上につらい。
だって、なにも返せない。
こんなに近くて手を伸ばせばすぐに届く距離なのに、なにも応えることができない。

「……っ」
 
心臓が痛い。
痛くて痛くて、その痛さだけで死んでしまいそうだ。

止まらない涙。
縮まらない距離。
ふさわしい言葉が見つからない、押しつぶされるかのように長い沈黙。
ひたすら、ただひたすら続く雨の音。


しばらくしたら、ウソツキさんは「ごめん」とひと言言って、五階へひとりおりていった。
私はすぐには起きあがれずに、あたりが薄暗くなってからようやく腰をあげ、泣きはらした目をこすりながらトボトボと歩いて帰った。
 
雨がさっきよりも、ひどくなっていた。