ウソツキさんはふっと笑って、
「あー、ホントめんどくさい女」
とぼやく。

「やっぱ帰ります」
「ウソだって」
 
踵を返そうとする私の腕を、ウソツキさんは逃がさないと言わんばかりに強く引きよせた。
引っぱられすぎて、軒下まで入ってしまう。

「上、行こ」
「え?」
 
すかさず私の傘は取られ、そのままエレベーターへ。
中へ入ると、ウソツキさんは頭を振り、雨水を飛ばした。

「ちょっとっ、水かかってます、ウソツキさん」
「知るかよ。あーさみぃ。風邪引いたらネコのせいだからね」
 
なんだろうか、このいつもどおりの雰囲気。
私は落ちこんでいるし、怒っているのに。
 
五階に着くと、ウソツキさんは一瞬立ち止まって、少し考える素振りを見せてから、やっぱこっち、と階段を上りはじめた。
いまだ握られたままの腕を引っぱられ、私もあとをついていく他ない。