「……残念。キスすらできないんだった」
 
そして、ウソツキさんの、冷めたような抑揚のない声が耳をかすめた。
 
私はゆっくりと目を開ける。
すでにウソツキさんは手を離し、定位置に戻っていた。

「ごめん、引き止めて。今日はもう帰るんでしょ? いいよ、もう帰って」
「…………」
 
……なにそれ? 
 
私は持っていたカバンを開け、手を突っ込んで取り出したものを思いきり投げた。
それは勢いよくウソツキさんの首もとに当たる。

「いてっ! なにを……」
「ウソツキさんのウソつきっ! もうなにも信用できないっ」
 
ウソツキさんが、ベンチの下に落ちた私の投げた物を拾う。

以前買いだめした時に一ケースだけ残っていた、ウソツキさんが毎回くれるのと同じチョコレートの箱。
ウソツキさんが忘れてもいいように、毎日こっそりカバンに忍ばせていた。