「とりあえず座れば? チョコあげるから」
 
帰ろうと思えば帰れたのだけれど、なんだかこの微妙な空気にそうせざるを得ないような気になって、恐る恐るベンチの端の端に小さく座る私。

「はい。精神安定剤入り」
 
そして、昨日と同じチョコを昨日と同じように手のひらにくれる彼。

「……どうも」
 
やっぱりこの人変だな、と思いつつ、私はそれを指でつまんでゆっくり口に入れた。
気のせいかもしれないけれど、甘さが口の中に広がって、動悸も本当に落ち着いてきたような気がする。

「なんかネコみたいだね、キミ」
「え?」
 
陽が沈んでいく方向を見ながら、ぽつりと彼は言った。

「エサを食べたから懐くかと思えば、触ろうとした途端、急に逃げて。でも、またエサ食ってるし」
「…………」
 
さっきからアンタだのキミだの、挙句、猫だのエサだの、遠慮のない人だ。