なにか冗談を言い合っているのだろうか、彼女さんがウソツキさんを小突いたのが見えた。
そしたらウソツキさんは、彼女の耳を引っぱって怒った真似をした。
 
あ、耳、直接さわった……今。
 
すぐに手は離されたけれど、その瞬間の映像が一時停止で私の頭の中に留まる。
 
彼女には、普通に触れるんだな。
普通にさわってもらえるんだな。

いい、な……。
 
パ―ッと、私に対してではないけれど、近くを通っていた車がクラクションを鳴らしたことで、ハッと我に返る。
すでに遠いし、薄暗くてよく見えないけれど、ウソツキさんと彼女はおしゃれなレストランみたいなところに入っていった。
 
私、今……。
 
目で追う対象がいなくなり、ゆっくりコンクリートの地面に視線を落とす。
 
さわってもらえること……うらやましいと、思っ……た。