ベンチまで来てドカッと腰掛け、パーカーのフードを取ると、ようやく手を解放される。

「なんで急に現れたんですか?」
 
私はなんとなく雰囲気がちがうウソツキさんを見ながら、ゆっくり腰をおろして尋ねた。

「屋上から下見てたら、たまたまネコがサカってる男に迫られてたから」
「サカ……そんな言い方しなくても」
「大丈夫?」
 
空を見て話していたウソツキさんが、横にいる私に視線を移した。
その、半分夕陽に照らされているキレイで真面目な顔に、思わず心臓が跳ねる。

「直にさわられなかった?」
「う……はい、大丈夫です」
「よかった」
 
その言葉がどういう意味での“よかった”なのかはわからないけれど、ウソツキさんの予想以上に温かい声に、一瞬ふわりと表現しにくいような感情が生じた。