前髪を結んでいるから丸見えの顔は、改めてちゃんと見ると、結構整っていた。
カッコいいとキレイを兼ね備えた中性的な顔だから、きっと女の子ウケするだろう。
 
でも私は、違う種類の緊張で生唾を飲む。
ゆっくり、ヘアゴムだけを取ることに専念しようとして。

「すっげぇスローモーション」
 
前屈みで恐る恐る手を伸ばす私を見かねた彼は、私の腕を急に握ってきた。

「いやっ!」
 
その途端、すごい勢いで手を振り払ってあとずさる。
彼は、びっくりした顔で「え?」と言った。

「あのさ、そこまで反応しなくてもよくない? どんだけ自意識過剰なの?」
 
彼のあきれたような声が遠くに聞こえるが、そんなことはどうでもいい。
つかまれたほうの腕を、もう片方の手で握る。
カチカチと音が小さく響き、それが自分の歯の音だとようやく気付いた。
 
……よかった。
制服、長袖の時期で、本当によかった。