考えながら歩いていると、いつのまにかマンションの前まで来ていた。

「取りにいくだけだし、大丈夫かな」
 
いるとは限らないし、会ってもすぐヘアゴムを見つけて帰ればいいや。
そう思った私は、意を決してマンションのエレベーターに乗り、五階のボタンを押した。
 
五階に着き、突き当たりの階段を上り、小さな踊り場を曲がる。
外からの風圧で重たく感じる扉を押して屋上へ出ると、地面を歩くだけじゃ感じられない空気が私を迎えてくれた。
学校での息苦しさや過去の嫌な思い出なんて、この風と上に広がる澄んだ空が吹き飛ばしてくれるような気になる。
 
ああ、やっぱり、私ここが好きだな。
大きく深呼吸をした私は、右に曲がったところにあるベンチへと足を向けた。
 
えっと、ヘアゴム、ヘアゴム……。
 
昨日の彼はいないようで、ホッとする。
ベンチの上と下、風で転がっていないかプランターやフェンス際なども隈なく探すことにした。