「…………」

途中、ウソツキさんのマンションを通りすぎる時、少しだけ歩みをゆるめた。
 
屋上に行ったら、話を聞いてくれるだろうか。
また、大丈夫だ、と言ってもらえたら、少しは楽になるかもしれない。

でも……。

『晃樹? 晃樹なら今日いないんだけど……』
 
ウソツキさんを晃樹と呼んでいたあの彼女のことを思い出すと、なぜか会いたくなかった。
私はまた、急ぎ足を再開した。
 




家に帰り、すぐに自分の部屋に閉じこもると、ベッドに仰向けになり、顔を両手で覆う。

「はぁ……疲れた」
 
大きなため息をつくけれど、心は軽くならない。
なにも考えたくないから、お母さんが帰ってくるまで、このまま眠ってしまおう。

そう思った私は、ゆっくりと目を閉じた。