「なんだ、熱ももうないじゃん」
「うん、来週から学校に行く」
 
今日は金曜日だ。
うつむきながらもそう答えると、お兄ちゃんはもう一度、頭を撫でて笑ってくれた。

そして、「バイトに遅れるからもう行くね」と手を振って部屋から出ていった。


私は、お兄ちゃんが閉めたドアを、しばらくぼんやり見つめていた。
 
お兄ちゃんは、ものすごく私を大事にしてくれる。
私の蕁麻疹は、自分が父親から守りきれなかったせいで出るんだと、そして、自分が大学進学してしまったから、私を男子のいない私立の女子高に入れてあげられなかったんだと、そんなことは決してないのに、自責の念を感じているみたいだ。
 
ただでさえ、人一倍心配性なお兄ちゃん。
私が小・中学生の時に泣いて帰ると、陰口を叩いた相手の名前を聞きだして乗りこもうとするほどだった。
 
お兄ちゃんに、これ以上心配をかけたくない。
もちろん、お母さんにも。
 
誰にも相談できない胸のうちに、先ほど無理やり食べたチョコレートが、べったりとこびりついているような感じがした。