「俺の勘が、当たってよかった」
ふわりと風に揺れる黒髪。
ビー玉みたいに綺麗な、ブラウンの瞳。
「待たせてごめん。グループワーク、今日はもう終わったから一緒に帰ろう?」
真っ直ぐに差し出された手は、いつでも私を守ってくれる、大きくて、優しい手だ。
「菜乃花?」
いつも通りの光景なのに、どうしてか、泣きたくなった。
背後で揺れる、アイボリーのカーテン。
ひっそりと存在を主張する、真っ黒なグランドピアノ。
「……帰ろう、朝陽」
私は涙を必死に堪えながら顔を上げると、優しい彼の手に、自分の手を重ねた。