『世の中に、普通の奴なんかいない。誰だって、何かが欠けてる。ただ、その欠けてる場所が違うだけ。……完璧な奴なんて、どこにも存在しないんだから』
……どうして。
どうして彼は、そんなことを──。
「……菜乃花?」
「……っ!」
その時。突然、穏やかな優しい声が、私を呼んだ。
私はどれくらい、その場に立ち竦んでいたのだろう。
弾かれたように顔を上げると、何故かそこには朝陽が立っていた。
「朝陽……どうして……?」
今日はグループワークがあるから、遅くなるって言っていたのに。
だから私は先に帰るねって伝えて……朝陽は私がここにいることも、知らなかったはずなのに。
「なんとなく、菜乃花がここにいるような気がしたんだ」
「え……?」
「ここで、菜乃花が俺を待ってるような気がして……。気が付いたら、足が勝手に音楽室に向かってた」
「習慣って怖いな」、なんて。
続けてそんなことを言いながら笑った朝陽が音楽室に入ってきた。