「俺からしたら、自分こそは〝普通〟だって胸を張ってる奴のほうが普通じゃない。世の中に、〝普通〟の奴なんかいないだろ。誰だって、何かが欠けてる。ただ、その欠けてる場所が違うだけだ。……完璧な奴なんて、どこにも存在しないんだから」
そこまで言うと、陸斗くんはカーテンから手を離した。
「わ……っ!?」
突然支えをなくした私の身体は大きく後ろへよろめいて、すぐに窓へとぶつかった。
ほんの少しの衝撃なのに心臓はバクバクと高鳴っていて、ただ、立っているのがやっとだ。
「仮にアンタが普通じゃないなら、俺だってきっと、普通じゃない」
再び強く放たれた声と同時に絡まる視線。
数秒の沈黙と、冷たい空気。
聞きなれたチャイムの音が校内に響いて、一瞬身体がピクリと揺れた。
「……チッ」
──どれくらい、見つめ合っていたんだろう。
不意に興味をなくしたように視線を外したのは陸斗くんで、彼はそのまま踵を返すと無言で音楽室を出ていった。
残された私の耳の奥で響くのは、彼から渡された言葉の欠片だ。