「あ、あの」

「何?」

「考えてみたけど、思いつかなかったよ」


正直に答えると、陸斗くんは一瞬目を見開いてから、フッと笑った。


「使えねー」


その、初めて見る穏やかな笑顔に、心臓がドクリと大袈裟に音を立てる。


「まぁいいや。最初から、アンタに大した期待もしてないし」


再び髪を片手でかき上げた陸斗くんが、ピアノの椅子から立ち上がる。


「じゃあ、俺は──」

「使えないのは、そっちだろ」


と、そのタイミングで口を開いたのは、私の隣に立つ朝陽だった。

慌てて隣を見上げると、朝陽は何故か冷たい目を、陸斗くんに向けている。

朝陽……?

滅多に見られない朝陽の様子に、心臓が不穏な音を立て始めた。