「ここからじゃ、先輩か後輩かも見えないし……」
「どうするも何も、ないだろ」
「え?」
「サボってる奴に、俺らが気を使う理由なんてない。掃除、さっさと終わらせるぞ」
「あ……おいっ、あさ──」
朝陽はリュージくんの静止を無視して、躊躇なく音楽室の扉を開けた。
朝陽らしいといえば朝陽らしいけれど、一緒にいる私たちはドキドキする。
ガラガラガラ……と鈍い音を立てて開いた扉。
アイボリーのカーテンがふわりと揺れて、独特の香りに身体全体が包まれた。
いつもの、放課後の音楽室とは少し、違う。
空高く輝く太陽と、温かな室内。
茜色に染まる静かな世界はここにはなくて、なんだか少し、不思議な気分だった。