……第三音楽室。

放課後以外に、朝陽と一緒に行くのは初めてだ。

もちろん今日は二人きりではなくて、リュージくんも一緒だけれど──。


「よっしゃ! じゃあ、パパッと終わらせに行くか!」

「……っ」


元気の良いリュージくんが、私と朝陽の背中をバンッ!と叩いた。

反射的に背筋を伸ばすと、隣に立っていた朝陽がリュージくんに向かって「馬鹿力でやめろ!」と声を上げる。


「悪い悪い! まぁ、とにかく行こうぜ!」


リュージくんの手には、モップが二つと大きなバケツが一つ、握られていた。

私の右手には雑巾。

朝陽の手にはモップが一つと、空いているもう片方の手は、真っ直ぐに私へと伸ばされて──。


「……菜乃花、行こう」


柔らかな笑顔と同時に握られた手に、心臓が甘く高鳴った。

ざわざわと不穏に揺れる心と、窓の外で風に揺れる木々。


「……うん」


私は温かい手をそっと握り返すと、一度だけ小さく、頷いた。