「あさ、ひ……」

「一緒に、帰ろう」


固まっていた私の手を、朝陽の大きな手がそっと、掴んだ。

視界の端では、アイボリーのカーテンが初夏の風に吹かれて、ゆらゆらと揺れている。

大きなグランドピアノと、古めかしい音楽室。

世界から切り離された、二人だけの小さな世界。

繋がれた手は、今日もとても温かい。

私は必死に瞬きを繰り返して涙を払うと、繋がれた手に力を込めた。