「菜乃花、どうした?」
心配そうに声を零して、朝陽が私の顔を覗きこんだ。
……ズルは、やめましょう。そんなの、小学生でも知っていること。
私だって、知ってることだ。ズルはもう、やめなきゃいけないんだって。
早く朝陽を解放してあげなきゃいけないと、昼間聞いた陸斗くんの言葉に攻め立てられているような気持ちになって──冷や汗が、背中を伝った。
「……菜乃花」
「……っ」
「菜乃花、こっち見て」
優しくて。木漏れ日のような声が私を呼んだ。
ゆっくりと俯いていた顔を上げると、見慣れた朝陽の笑顔があって、それだけで泣きたくなる。