「……帰るか」


今日も青い空がゆっくりとオレンジ色を帯びて、長い一日の終わりを告げようとしていた。

カーテンを開けた朝陽は鞄を手に持ち、当たり前のように私に向かって手を差し出す。

大きな手。

子供の頃は私の手と変わらなかったのに、いつの間にか追いつけないほどの差が、ついてしまった。


「……っ」

「……菜乃花?」


目の前の朝陽が、眉根を寄せて私を見ている。

私は朝陽の手を掴もうと手を伸ばして──
一瞬、重ねることを躊躇した。

頭の中で木霊するのは、昼間聞いた陸斗くんの言葉だ。


『っていうか、ズルはやめましょうとか小学生で習うことだろ?』


──私は、自分がADHDであることを理由に、朝陽のことを縛り付けている。

朝陽の優しさを利用して、朝陽が私から離れられないようにしているのだ。