『菜乃花、頑張ったな』
あのとき朝陽は、そう言って微笑んでくれたけど……。
朝陽が実際は、どう思っていたのか、本心はわからない。
自分が目指す高校に、私でも合格できそうな商業科があることを、朝陽は一度も私に言わなかったから。
朝陽と同じ高校を受験すると言った私に、『そっか』と応えただけで、嬉しいとも止めろとも言わなかったのだ。
……朝陽が、何を考えているのかわからない。
だからといって、本人に尋ねる勇気もなかった。
頭の良い朝陽は、私の気持ちにもきっと……気付いているはずだ。
だけどいつも、肝心なことは何ひとつ言わないから、私は彼の優しさに甘えてしまう。
"好き"
──朝陽は、私のことをどう思ってる?
その言葉は宙に浮いたまま、心の奥に、置き去りにされている。